新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の対象経費と賃上げ要件|申請後の資金繰り・返還リスクまで解説

補助金の実務として、経費・賃上げ・資金繰りの確認手順を示す図解

新事業に必要な設備やシステムへの投資を考えるとき、「補助金が使えるなら、先に発注して進めたい」と感じるかもしれません。

ただし、この補助金は採択された時点で、応募時に計上した経費がすべて認められる制度ではありません。採択後に交付申請と経費の精査があり、交付決定前に契約や発注をした経費は補助対象外です。さらに、補助事業の終了後も、賃上げ・最低賃金などの目標を3〜5年の計画期間で達成する必要があります。

この記事で確認すること
  • 補助対象経費と、枠ごとに必要な必須経費
  • 交付決定前に発注できない理由と、資金繰りの考え方
  • 賃上げ・最低賃金・付加価値額の要件と、返還が生じ得るケース

制度全体や3つの申請枠の概要は、柱記事をご覧ください。

目次

まず確認:採択されても、申請額どおりに受給できるとは限りません

この補助金では、採択後に「補助金交付申請」を行います。その際、事務局が経費の内容を補助対象として適切か精査します。そのため、応募時に計上した経費であっても、交付決定額が減額されたり、対象外になったりすることがあります。

大切なのは、「採択されたら補助金が入る」と考えて支払い計画を組まないことです。契約・発注、納入、検収、支払いを補助事業実施期間内に完了させ、実績報告と検査を経て額が確定する流れを前提に、自己資金や融資を含めた資金繰りを考えましょう。

補助対象経費の全体像|枠ごとの必須経費を先に押さえる

補助対象経費は、補助事業のために必要で、金額の妥当性を証拠書類で確認できるものに限られます。さらに、枠ごとに必須となる経費があります。

区分主な内容対象となる枠
機械装置・システム構築費機械、工具・器具、専用ソフトウェア、情報システムなど全枠。革新的新製品・サービス枠では必須
建物費生産・加工・販売・検査施設などの建設・改修新事業進出枠・グローバル枠。機械装置・システム構築費といずれか必須
その他の主な経費運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費枠・事業内容に応じて対象
海外向けの経費海外旅費、通訳・翻訳費グローバル枠のみ

広告費や外注費だけでは足りない場合があります

たとえば、新事業進出枠であれば、広告費や外注費だけを計上する計画では足りません。機械装置・システム構築費または建物費を含め、その投資が新しい事業の実施に不可欠であることを説明する必要があります。

革新的新製品・サービス枠では、機械装置・システム構築費が必須です。単に設備を導入するのではなく、その設備を使ってどのような新製品・新サービスを開発するのかが問われます。

対象外・注意が必要な支出|「新規事業専用」と説明できるか

経費の判断で特に重要なのは、その支出を補助事業のために「専ら」使うと説明できるかどうかです。既存事業と共用する経費や、既存設備を単に入れ替えるだけの経費は、補助対象になりません。

  • 既存事業に使う経費、既存事業と共用する経費
  • 既存の機械装置・システムの単なる置換
  • 事務所の家賃、保証金、敷金、水道光熱費
  • 一般管理費、雑費など、内訳を確認できない経費
  • 販売用・レンタル用の商品、試作品、サンプル品、予備品の購入費
  • 不動産の購入費、簡易建物の購入費

建物費にも条件があります

新事業進出枠・グローバル枠では、補助事業に専用で使う建物の建設・改修などが対象になり得ますが、建物そのものの購入や賃貸は対象外です。また、建物費では入札または相見積もりが求められます。

「新しい設備だから対象」ではありません。新規事業で何を実現するために必要なのか、既存事業とどう区分して管理するのか、見積書・契約書・納品書・振込記録で確認できるのか、という順に整理しましょう。

発注は交付決定後|資金繰りを逆算して予定を組む

補助対象経費は、交付決定日より前に契約や発注をしたものは対象になりません。採択の発表後も、交付申請と経費の精査を経て交付決定を受けるまでは、発注を急がないことが重要です。

STEP
応募申請・採択後に交付申請を行う

採択後に経費の精査を受けます。応募時に計上した経費が、そのまま認められるとは限りません。交付申請は原則として採択発表日から2か月以内です。

STEP
交付決定後に契約・発注する

交付決定日より前に契約や発注をした経費は、補助対象になりません。

STEP
実施期間内に支払いまで完了させる

契約・発注、納入、検収、支払いをすべて補助事業実施期間内に完了させます。

STEP
実績報告・検査を経て、その後も報告する

補助事業完了後は実績報告と検査があり、その後も事業化状況報告が必要です。

支払いは、原則として補助事業者自身による銀行振込の実績で確認されます。現金払い、相殺、代引き、手形・小切手、ファクタリング、PayPayやPayPalなどの決済サービスは補助対象になりません。分割払いの場合も、補助事業実施期間内にすべての支払いを終える必要があり、一部でも未完了なら当該契約に含まれる経費全体が対象外となります。

また、交付申請では、可能な範囲で複数の見積もりを取り、その中で最低価格を提示した者を選定します。1件あたりの見積額合計が50万円(税抜)以上となる契約・発注先については、同一条件の3者以上の見積もりが必要です。見積もり集めは交付決定後に慌てないよう、申請準備の段階から候補先と仕様を整理しておくと安心です。

融資を使う場合の注意

金融機関から資金提供を受けて補助事業を行う場合には、資金提供元の金融機関による事業計画の確認と「金融機関による確認書」の提出が必要です。補助金の見込み額だけで判断せず、いつ、何を、いくら支払い、どの資金で立て替えるのかを早めに共有しましょう。

なお、2026年8月31日に事業計画・財務情報と収益計画・資金調達表と補助対象予定経費・スケジュールの4種類の「補助事業計画検討用フォーマット」が公開されました。これは申請内容を事前に整理するための資料です。応募時は、申請受付開始に合わせて公開される「応募申請画面インポート用フォーマット」へ転記してアップロードする必要があり、検討用フォーマットそのものはアップロードできません。

賃上げ・最低賃金・付加価値額は、会社全体の計画として考えます

この補助金では、補助事業が終わった後も3〜5年の事業計画を実行し、目標を達成する必要があります。主な基本要件は次の3つです。

要件求められる水準確認のポイント
付加価値額要件年平均成長率4.0%以上営業利益・人件費・減価償却費の合計で考える
賃上げ要件1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上交付申請時までに目標を従業員等へ表明する
事業場内最賃水準要件地域別最低賃金より30円以上高い水準補助事業実施場所で毎年確認する

付加価値額は、補助事業だけの数字ではなく、事業者全体で判定されます。新規事業の売上見込みだけを伸ばしても、既存事業を含む会社全体の収益・人件費・減価償却費を踏まえて実現できる計画になっているかを確認しましょう。

賃上げ要件の「1人当たり給与支給総額」は、給与・賃金・賞与などを基に算出されます。役員報酬、福利厚生費、法定福利費、退職金は含まれません。従業員の入退社、休業、パートタイム従業員の扱いなどでも算定が変わるため、賃金台帳を基に無理のない目標かを確認することが大切です。

このほか、応募申請時までに一般事業主行動計画を「両立支援のひろば」で公表する要件や、子育て等に関する職場環境整備に向けた取組を行う要件もあります。労務の個別判断や賃金設計は、必要に応じて社会保険労務士などの専門家にご確認ください。

返還リスクは、条件と記録を分けて確認しましょう

返還の話だけを聞くと不安になりますが、重要なのは「どの要件で、どのような場合に、どの記録が必要か」を分けて確認することです。未達だから常に全額返還となるわけではなく、取扱いは要件ごとに異なります。

主なケース公募要領上の取扱い
従業員等への賃上げ目標の表明をしていない交付決定の取消しと、補助金全額の返還を求められる
賃上げ目標を最終年度に達成できない未達成率に応じた一部返還を求められる場合がある。年平均成長率が0%以下の場合は全額返還となる規定がある
事業場内最低賃金の水準を毎年維持できない事業計画期間の年数で割った額の返還を求められる場合がある
賃上げ特例の追加要件を達成できない補助上限額の引上げ分の全額返還を求められる場合がある
実績報告を期限までに提出しない交付決定が取り消される場合がある
単価50万円(税抜)以上の取得財産を無断で目的外使用・譲渡・担保設定・廃棄などする処分制限があり、事前承認や納付が必要となる場合がある

付加価値額が増加しておらず、会社全体で一定期間の営業利益が赤字である場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合には、返還を求めない規定もあります。個別の判断は事務局の確認が必要ですが、最初から「余裕のない数字」を目標にしないことが一番の予防策です。

補助事業を完了したら、完了日から30日を経過した日または補助事業完了期限日のいずれか早い日までに実績報告書を提出します。取得財産や帳簿類を確認できない場合、その財産等に係る金額は補助対象になりません。建物等の施設・設備には、少なくとも事業計画期間の終了まで、自然災害(風水害を含む)を補償し、申請した補助率以上の付保割合を満たす保険または共済への加入も必要です。

事業化状況報告は、補助事業を完了した年度の終了後を初回として、以後5年間にわたり計6回必要です。事業計画期間を3年または4年とした場合でも、報告は5年後まで続きます。経費の証拠書類も、補助金を受給した年度の終了後5年間は保存する必要があります。

申請前から実績報告後までの実務チェックリスト

  • 申請枠と、新規性・新市場などの補助対象事業要件を確認した
  • 必須経費を含め、補助事業専用と説明できる経費を整理した
  • 交付決定前に契約・発注しない予定になっている
  • 採択された場合、原則2か月以内に交付申請を行えるよう、見積もり・資金調達・工程を準備している
  • 契約・納入・検収・支払いを、実施期間内に終えられる
  • 銀行振込で支払える資金計画になっており、50万円(税抜)以上の発注先は同一条件の3者以上の見積もりを準備できる
  • 自己資金・融資を含め、支払いに耐えられる資金繰りになっている
  • GビズIDプライム、一般事業主行動計画の公表などの申請前要件を確認した
  • 4種類の補助事業計画検討用フォーマットで、事業計画・収益計画・資金調達と経費・スケジュールを整理した
  • 賃上げ・最低賃金・付加価値額を、会社全体の3〜5年計画で確認した
  • 見積書、契約書、納品書、請求書、振込記録、賃金台帳の保存方法を決めた
  • 実績報告の期限、保険・共済の加入、取得財産の処分制限、その後の事業化状況報告を予定表に入れた

よくある質問

採択されたら、すぐに発注してよいですか?

いいえ。交付決定日より前に契約・発注した経費は補助対象外です。採択後も交付申請と経費精査を経て、交付決定を受けてから進めます。

既存設備の入れ替えでも対象になりますか?

既存の機械装置・システムの単なる置換は補助対象外です。新規事業のために必要な投資であることを、事業計画と証拠書類で説明できるか確認しましょう。

賃上げ要件を達成できなければ、必ず全額返還ですか?

返還の取扱いは要件ごとに異なります。賃上げ目標の未表明は全額返還の対象ですが、目標未達は未達成率に応じた返還を求められる場合があります。必ず最新の公募要領を確認してください。

投資・資金・要件を同時に整理したい方へ

補助金の申請では、対象経費だけを先に決めても、計画全体がつながらなければ実行段階で負担が大きくなります。新規事業の内容、必要な投資、資金繰り、申請に必要な書類を一緒に整理してから進めることが重要です。

TKマネジメントでは、補助金の活用を検討する事業者の方に向けて、事業計画の整理や申請準備をサポートしています。対象になるか迷う段階でも、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は制度の概要を分かりやすくお伝えするものです。個別の採否、経費の可否、融資判断、税務・労務の取扱いを保証するものではありません。申請時は必ず最新の公募要領応募申請ガイドFAQをご確認ください。

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