新しい設備の導入、新製品・新サービスの開発、新しい顧客層への展開を考えたとき、「革新的新製品・サービス枠と新事業進出枠のどちらで検討すればよいのだろう」と迷う方は少なくありません。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、補助上限額だけで枠を選ぶのではなく、何を新しく提供するのか、誰に届けるのか、設備投資がその取組にどう必要なのかを整理することが大切です。
この記事では、国内向けの新製品・新サービス開発や新市場への進出を検討する事業者の方向けに、2つの枠の考え方を解説します。個別の対象性は、事業内容と最新の公募要領を踏まえて確認する必要があります。
※本記事は2026年8月10日時点の第1回公募要領(1.1版)および公式情報を基に作成しています。申請時は必ず最新の公募要領・公式サイトをご確認ください。
- 革新的新製品・サービス枠と新事業進出枠の考え方の違い
- 新規性・新市場・高付加価値性を整理する際の注意点
- 対象になりにくい取組と、申請前のセルフチェック
まず結論|「新しい価値の開発」か「新しい顧客市場への進出」か
大まかな整理は、次のとおりです。
| 検討しやすい枠 | 取組の中心 | 最初に整理したいこと |
|---|---|---|
| 革新的新製品・サービス枠 | 顧客に新しい価値を提供する、新製品・新サービスの開発 | 自社の技術・ノウハウを生かした開発か。既存工程の改善だけではないか。 |
| 新事業進出枠 | 自社にとって新しい製品・サービスを、既存とは異なる顧客市場へ提供する取組 | 新たに提供するものと、新たに対象とする顧客層は何か。 |
「どちらが有利か」ではなく、自社の計画で最も中心となる変化は何かから考えると、枠を整理しやすくなります。
制度全体の3枠比較や補助率・上限額は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?3つの申請枠と対象事業を解説で確認できます。
国内向け2枠とグローバル枠の違い
補助対象事業枠は、導入したい設備の金額だけで選ぶものではありません。自社が何を新しくするのかを起点に、最も合う枠を検討します。
革新的新製品・サービス枠
自社の技術力やノウハウを生かし、顧客に新たな価値を提供する革新的な新製品・新サービスを開発する取組のための枠です。既存の製品・サービスの生産工程を改善するだけの取組や、新製品・新サービスの開発を伴わない設備導入は対象になりません。
開発する製品・サービスが顧客にどのような新しい価値を提供するのか、自社の技術・ノウハウがどのように生きるのかを説明できるかを確認します。
機械装置・システム構築費を必ず含める必要があります。
新事業進出枠
自社にとって新しい製品・商品・サービスを、既存事業とは異なる新たな顧客市場へ提供する取組のための枠です。日本初・世界初である必要はありませんが、自社にとっての製品等の新規性と、市場の新規性の両方を説明する必要があります。
「既存事業と何が違うか」だけでなく、「従来は対象としていなかったどの顧客層・ニーズを対象にするか」まで整理します。
機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを必ず含める必要があります。
グローバル枠
グローバル枠は、海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制強化を対象とする枠です。自社の製品等を活用し、自社主導で新たな海外販路を開拓する取組が前提となります。取引先主導の取組は対象外とされています。
国内向けの2枠とは、対象とする市場と確認すべき事業内容が異なります。海外市場の開拓を目的としない場合は、革新的新製品・サービス枠または新事業進出枠を中心に検討します。
制度の詳細は、柱記事および公式公募要領をご確認ください。
3つの申請枠を簡潔に比較
| 申請枠 | 中心となる取組 | 主な判断ポイント |
|---|---|---|
| 革新的新製品・サービス枠 | 革新的な新製品・新サービスの開発 | 顧客への新しい価値と、自社の技術・ノウハウを説明できるか |
| 新事業進出枠 | 新製品等による新市場・高付加価値事業への進出 | 自社にとっての製品等と顧客市場、双方の新規性を説明できるか |
| グローバル枠 | 海外市場開拓に向けた国内の輸出体制強化 | 自社主導の海外販路開拓と、必要な国内投資を説明できるか |
「はい」であれば、グローバル枠を検討します。国内向け2枠を中心に検討する場合は、次の質問へ進みます。
「はい」であれば、新事業進出枠を検討します。
「はい」であれば、革新的新製品・サービス枠を検討します。実際の該当性は、公募要領と個別の事業内容を踏まえて判断します。
革新的新製品・サービス枠で確認したいこと
顧客に新しい価値を提供する製品・サービスか
この枠は、顧客等に新たな価値を提供することを目的に、自社の技術力等を生かして新製品・新サービスを開発する取組を支援するものです。
まずは、「新たに提供するものは何か」「顧客のどのような困りごとを解決するのか」「これまでと比べてどのような価値が増えるのか」を言葉にしてみましょう。
自社の技術力・ノウハウを生かした開発といえるか
自社が持つ製造技術、専門的なノウハウ、顧客との関係などが、新しい製品・サービスの開発にどのようにつながるのかを整理します。
「新しい機械を導入するので新しい事業になる」という順序ではなく、「提供したい新しい価値があり、それを実現するためにこの設備が必要である」という順序で考えると、計画の軸が明確になります。
工程改善や設備導入だけにとどまっていないか
既存製品・既存サービスを同じように提供するための工程改善、効率化、設備更新だけでは、この枠の補助対象外とされています。
導入後に何が速くなるかだけでなく、導入によってどのような新製品・新サービスを開発できるようになるのかを確認してください。
同業で既に広く普及していないか
自社にとって初めての取組でも、同業で既に相当程度普及しているものは、この枠に該当しません。既存の商品・サービスとの違い、顧客に提供する価値、自社の技術・ノウハウを確認しながら検討することが大切です。
新事業進出枠で確認したいこと
自社にとって初めて提供する製品・サービスか
新事業進出枠でいう新規性は、日本初・世界初という意味ではありません。自社にとって初めて製造・提供する製品・商品・サービスかどうかが基準です。
ただし、過去に扱っていた製品・サービスを再び提供する計画は、新規の取組とはいえません。なお、申請予定公募回の公募開始日(公募要領公開日)以降に初めて取り組む事業は、新規性を有するものとみなされます。既存の製品・サービスとの違いを、機能、用途、対象顧客、提供方法などから整理しましょう。
既存とは異なる顧客市場を対象にするか
新規性に加えて、自社にとって新たな市場へ進出することも必要です。ここでいう新たな市場とは、既存事業では対象にしていなかったニーズ・属性を持つ顧客層を対象とする市場を指します。
単に既存商品の販売量を増やす場合、販売地域だけを広げる場合、既存顧客向けのメニューを少し追加する場合などは、公募要領で新事業進出枠に該当しない例として示されています。
「自社にとっての新規性」と「新市場・高付加価値性」を分けて考える
新事業進出枠では、対象性の確認として「自社にとって新しい製品・サービス」と「自社にとって新しい顧客市場」を整理します。
そのうえで、書面審査では、新市場性または高付加価値性のいずれかを選択して説明します。新市場性では、社会一般におけるジャンルや分野の普及度・認知度などを確認します。高付加価値性では、同じジャンルの一般的な価格や付加価値と比較し、どのような価値・強みがあるかを根拠とともに整理します。詳しい考え方は、新市場・高付加価値事業の考え方もご確認ください。
対象となる可能性がある取組・慎重な確認が必要な取組
次の表は、対象性を考えるための一般的な整理です。実際の対象性は、申請枠、事業内容、顧客市場、設備投資、実施時期、数値計画などを踏まえて個別に判断されます。
個別の事業が必ず対象または対象外になることを示すものではありません。
| 検討しやすい取組 | 慎重な確認が必要な取組 |
|---|---|
| 自社の技術を生かし、顧客に新たな価値を提供する製品・サービスを開発する | 既存品を同じ方法で作るために、古い設備を更新する |
| 自社にとって新しいサービスを、これまで対象にしていなかった顧客層へ提供する | 既存サービスの提供量を増やすことだけが目的である |
| 新事業に必要な機械装置・システムまたは建物費と、売上計画のつながりを説明できる | 設備を購入したい理由はあるが、新事業との関係を説明できない |
3つの質問で行う申請前セルフチェック
申請を急ぐ前に、次の3点を整理してみてください。
既存事業と比べて、何が新しく、顧客にどのような価値を提供するのかを整理します。
新事業進出枠を考える場合は、従来の顧客とは異なるニーズ・属性を持つ顧客層を説明できるかを確認します。
導入する設備・システムがなければ実現できない理由を、製品・サービスと顧客市場の変化につなげて整理します。
この3点を具体的に説明できるようになると、どの枠を中心に検討するのか、どの資料や数値を準備すべきかが見えやすくなります。
よくある質問
設備を入れ替えるだけでも申請できますか?
既存事業の工程改善、効率化、設備更新だけでは、革新的新製品・サービス枠の対象外とされています。新事業進出枠でも、既存商品の販売量を増やすだけの取組は該当しない例として示されています。
新事業進出枠の「新しい」とは、日本初・世界初でなければいけませんか?
日本初・世界初である必要はありません。ただし、自社にとって新しい製品・サービスであり、かつ自社にとって新しい顧客市場へ進出する取組であることが必要です。
高付加価値性は、必ず満たす必要がありますか?
書面審査では、新市場性または高付加価値性のいずれかを選択して説明します。対象性の確認で必要な「自社にとっての新規性」「新たな顧客市場」とは、分けて整理しましょう。
まとめ
革新的新製品・サービス枠と新事業進出枠を検討する際は、まず次の3点を確認してみてください。
- 自社の計画で、新しく提供する価値または製品・サービスは何か
- 新たに想定する顧客市場は、既存事業とどう異なるか
- 設備投資が、新しい取組を実現するために必要な理由を説明できるか
補助金の利用を目的に無理に事業を組み立てるのではなく、自社の強みと顧客ニーズに基づき、事業として継続できる計画をつくることが大切です。
枠の選び方からご相談いただけます
行政書士事務所TKマネジメントでは、現在の事業と新たな取組の違いを伺いながら、
革新的新製品・サービス枠または新事業進出枠として検討しやすいかを、公募要領等を確認しながら整理します。
※採択または補助金の交付を保証するものではありません。
参考資料:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイト/第1回公募要領(1.1版)
新市場・高付加価値事業の考え方/公式FAQ
本記事は2026年8月10日時点の公式情報を基に作成しています。公募要領・関連資料は更新される可能性があるため、申請時には必ず最新の公式情報をご確認ください。

